敬称を5回略す

その日はお笑いライブを見るために訪れた高円寺を歩いていた。

劇場は現在地の目と鼻の先だが、前の予定が思いのほか早くに済んだので開場まで30分ちかく持て余している状態だ。改札を抜けたすぐそこで、生活に根付いた店が立ち並ぶ市場の活気は、普段閑散とした町に腰を据えている自分にとって異国を思わせる。下北沢では感じないなにかがある。下北沢も好きだけど。

 

天気予報をチェックして歩き出すと、元竹内ズのがまの助っぽい人とすれ違う。背丈も髪型も目つきも似ている。確信できないのはマスクで顔の半分が隠れているのと、持っている鞄がビーズ細工まみれだったからだ。多分よく似た別人だろう。それにしても似ていた。

 

さて、ライブの時間まで如何にして暇を埋め立てようかと辺りを見回す。喫茶店に入るほどの時間はない。買い物をするほどの手持ちもない。タモリ倶楽部高佐一慈がプレゼンしたランキングよろしく行き止まりの路地を探す散歩に繰り出すことにした。

 

路地が好きだ。ブログのタイトルに入れるくらいには『みち』というものに惹かれている。

都心部では無限に見られる、建物どうしの隙間の空間も好きだ。無の空間だったところの両端にオブジェクトが設置されると途端に線/道ができる。人間が入れないほど狭く、建物の陰で暗く、先が見えない。実際のところはある程度進んだところで別の建物の壁に阻まれて行き止まりになるのだろうが、立ち入って確認できない神秘がある。

 

表通りの市場を抜けると、いかにも裏路地でございといった佇まいの道に入る。店主と常連だけで世界が完結しているバーや喫茶店がいくつも目に入る。

 

ふらふらと歩き回っていると道に迷って駅の付近にあるスーパーに戻ってきてしまった。行き止まりを探すにしてもまだ時間がある。一旦スーパーに入ることにした。

 

生鮮食品を冷やかしていると大柄な男性と髪の長いひとの二人組と目が合う。すぐに視線を逸らしてじゃがいもの品種を確認するそぶりに戻る。マヂカルラブリーの村上に似ていた。

最近ラジオを聞いていないから正確なことはわからないが高円寺から引っ越したのではなかっただろうか。きっとよく似た別人だろう。一応店を出た後『いとくとら』で画像検索はした。隣にいた髪の長いひとに似ていた。きっと別人だろう。

 

裏路地に戻る。開場まで10分を切っていた。商店街と住宅街とを繋ぐ狭い路地は夕方の空気の冷たさも相まってとても刺激的な魅力があった。中野に行ったときも感じたが意外にコンビニは少ないなと再認識しつつローソンに入ると、ちょうど出ていく客とすれ違った。元竹内ズの竹内に似ていた。身長が160cmくらいしかなかったから絶対に別人だろう。あの人に限っては絶対に、確実に一縷の可能性も根絶して別人だ。もし本人だったら長生きしてもいい。そのくらい背丈が違う。

 

ライブ会場に向かった。開場5分前に入れた。

 

ライブ終わり、駅までの道を間違えて完全な行き止まりにたどり着いた。

高円寺はいい町だ。