水を吸った布は重い

たくさんのドラム式洗濯機が回るのを見ている。コインランドリーでは半数近くの機械が作動していたが、店内にいるのは私だけだった。


店内はそれなりに清潔で腰を下ろせる椅子も数脚ある。しかし飲食禁止なうえ外に出て1分も歩けばコンビニエンスストアもコーヒーチェーンもある立地では、わざわざ洗濯機を前に待つ人間がごく少数派なのは自然といえよう。


時折洗濯機が仕事の終わりを告げる高い機械音が鳴る。たいていその3分ほど後に、洗濯ないしは乾燥が完了した衣類の持ち主が入店してくる。ここではそういったサイクルが構築されているらしい。


鞄の中を覗く。先日購入した古い文庫本につけていた文教堂の紙カバーが折り目に沿ってほとんど破れていた。新品が売られている書店に行っていない。


金はないが本は読みたいから図書館で借りるか中古の本を買う。外で本を読む時はブックカバーをつけたい。昔書店で新品を購入したときに取り付けてもらったブックカバーを移植する。古本を買うたびに次々と付け替える。ブックカバーが劣化していく。


書店のブックカバー。書店名が印刷された茶色のブックカバー。あれを見ると茶封筒の茶色だなあと思う。最低限の情報だけが書かれた無骨で無機質な茶封筒色の書店ブックカバーが好きだ。


書店に行きたいと思った。ブックカバーを得るために書店に行きたいと『思わされて』いるのかもしれない。古本には散々世話になっているし、きっとこれからもなり続けるのだが、書店に多額の金を使える大人になりたいという気持ちはなくならない。

 

 

一番近くの洗濯機から高い音が鳴る。洗濯が終わったらしい。乾燥機を回す金は無いので濡れた衣類をビニールバッグに詰める。

 

そういえばここのコインランドリーは何度入れても新500円硬貨が戻ってくるから「ああ、そういう旧式のやつね」と旧500円硬貨を投入したらそれも返ってきた。洗硬貨入れ口には『100円・500円硬貨対応』と太字にわざわざ赤い傍線まで引いて強調しているのに。

喉が渇いた。