ピザも食いたい

冬に塗れていく。

道を歩く。吐く空気にも吸う空気にも秋が存在していない。


先々月からのつきあいになる右手首の痛みは依然続いている。快方に向かうどころか、患部を庇った影響か痛みは肩口や左手首にまで及んだ。痛み止めの効きも悪くなった。歯止めが効かない。無力を文字通り痛感する。


足を進めるたびに体温が奪われていくのを感じ、抵抗しようと一人で喋る。喋ることで体温を上げる計画だ。

予定を喋る。今月も映画を見に行くとか、映画の前に珈琲豆を調達したいとか、他愛がどこにも見当たらない言葉を空気と一緒に吐いている。


じつは体温を上げるばかりでなく、常に雑然とした頭の中を少しでも整頓したくて喋っていた。しかし寒い。言葉が出てこない。だから余計寒い。


寒いと考えが止まる。言葉も止まる。正確にいえば言葉は発し続けているものの、同じところをぐるぐる回り続けている。その回転が段々と小さくなってきて、同じ同じ同じところを同じように繰り返している。


ため息が白くなるほどではない。実際それほど寒くはないのだ。落ち着かない精神が侘しさを呼び起こして体感温度にまで影響しているのだろう。


ついに全てが止まる。息をしているのかすらわからない。ただ一つだけの思考が残った。迷わず口にする。

 


「あ〜〜〜パソコンかiPad Air(M1チップ搭載)買いてぇ」