五香粉(ウーシャンフェン)とホワジャオは声に出したい

曖昧な直方体の豚バラ肉を煮込んでいる。ちょうど日付が替わるのと同じタイミングで黒い汁が沸き立つ。生姜がなくて傷みかけの新生姜を入れたり、長ネギがなくて傷みかけの小葱を入れたりしたがなかなか悪くない匂いがする。台湾の屋台だ。台湾行ったことないけど。

 

ここから0時50分までは赤子が泣いても蓋を取らずにじっくりコトコトを見守るのに徹する。実食は明日だから歯磨きを済ませてしまおうと洗面所に向かった。

 

歯磨きやら筋トレやらをしながら意識は鍋に注いでいる。なんというか、そう、吹きこぼれている気がする。

普段手の込んだ料理などしないから、時間をかけて煮込む料理の調理工程の正解がわからない。小刻みに蓋を震わせながら脂ぎった汁を放つ鍋を見ていると不安が押し寄せてくる。

 

赤子泣いても云々とはいうが赤子が泣いたら蓋のことを気にしている場合じゃなくなるんじゃなかろうか。腑に落ちない教えの代表だ。

その点煮込む様子を『コトコト』と表現するのは果てしない風情を感じる。すてきな擬音ランキングをつくるとしたらチャンピオンの座はまず間違いなくコトコトが獲る。               

 

煮込み開始から20分。鍋肌(外側)を伝う汁に恐怖を抑えきれず、火を止めたうえに蓋も開けた。

 

すごくおいしそうな角煮があった。すごくおいしそうだったのですべての不安が消え去った。